広島地方裁判所 昭和55年(わ)1号 判決 1980年3月03日
主文
被告人を懲役一〇月に処する。
未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和五四年一二月二八日午前零時ころ、広島市東雲本町一丁目五番六号所在の明和商事株式会社東雲給油所駐車場において、戸張良雄所有にかかる普通乗用自動車(登録番号広島五六め五八九八)一台(時価二五〇万円相当)を窃取し、
第二 公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前四時一〇分ころ、同市東千田町二丁目一三番一一号所在の横田石油店前付近道路において、前記普通乗用自動車を運転し
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は刑法二三五条に、判示第二の所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条にそれぞれ該当するが、判示第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇日を右刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。
なお、弁護人は、被告人の判示第一の所為は所謂使用窃盗にすぎないから無罪である旨主張するので検討するに、前掲関係証拠によれば、なるほど、被告人は、判示日時ころ前記乗用自動車を所有者に無断で乗り出す際、同日の午前五時三〇分ころまでにはこれをもとの場所に返すつもりであつたこと及びこの間右自動車の所有者である戸張良雄においてこれを自己使用する意思の全くなかつたことが認められるが、他方、右自動車は、昭和五四年型のニツサンセドリツク(セダンのSGLE型、二〇〇〇cc)で、右戸張において、昭和五四年九月ころ代金二六四万円で購入した後、勤務先の部下の宮本俊之に数回運転させたことがあるほかは、専ら右戸張がこれを運転しており、事件当日も、同人の会社の取引先の給油所の駐車場(同所は、夜八時以降は無人になるが、この間は歩道と右駐車場との境に鉄鎖を張り渡してある。)に駐車したもので、たまたまエンジンキー付きであつたとはいえ、これを被告人が乗り廻すことを暗黙にもせよ承諾したものでないことは明らかであり、また被告人は、約五時間半にわたり右自動車を完全に自己の支配下に置く意図の下に同駐車場から乗り出して、同所から数キロメートル離れた国鉄広島駅新幹線口前付近に至り、更に同所から広島市流川町付近を経て宇品海岸あたりまで運転する予定でいたことが認められるのであるから、かかる事実関係の下では、当初被告人が本件自動車を乗り出す時点において、窃盗罪の構成要件である不法領得の意思を有していたものと認めるのが相当である。従つて、弁護人の前記主張は採用しない。
よつて、主文のとおり判決する。